積み木の世界を動かすSHRDLU
「積み木の世界」は、コンピュータと人間が言葉を介してやり取りするための、初期の画期的な試みの舞台となりました。この仮想世界は、まるで子供部屋に広げられたおもちゃ箱のようです。様々な大きさ、形、色の積み木や、四角錐、球などが配置され、単純ながらも多様な操作が可能です。この世界で活躍するのがSHRDLU(シュルドゥルー)というプログラムです。SHRDLUは、画面上に表示されたこの積み木の世界を認識し、人間の指示に従って積み木を動かしたり、積み木の状態について説明したりすることができます。
SHRDLUとの対話は、まるで人間同士の会話のようです。例えば、ユーザーが「赤い積み木を青い積み木の上に置いて」と入力すると、SHRDLUは画面上の赤い積み木を探し出し、それを青い積み木の上に丁寧に積み上げます。また、「一番大きな積み木はどこにありますか?」と質問すれば、SHRDLUは現在積み木の世界の中で最も大きな積み木を見つけて、その位置を言葉で教えてくれます。さらに、「緑の四角錐を動かせる?」といった質問にも、「はい、動かせます」や「いいえ、その四角錐は他の積み木の下敷きになっています」といった具合に、状況を理解した上で返答します。
SHRDLUの革新的な点は、単に命令を実行するだけでなく、言葉の意味や文脈をある程度理解しているかのように振る舞う点です。これは当時としては驚くべきことで、コンピュータが人間の言葉を理解し、現実世界の問題を解くための大きな一歩となりました。積み木の世界という限られた環境ではありますが、SHRDLUは見事に言葉を理解し、行動で示すことで、人とコンピュータが自然な言葉で対話する未来の可能性を示したのです。まるで魔法使いが魔法の呪文で物を操るかのように、言葉によって仮想世界を自在に操るSHRDLUの姿は、多くの人々に人工知能の未来への期待を抱かせました。