常識を機械に:Cycプロジェクトの挑戦
「もの識りになるための機械の学習」という課題に、長年、人工知能の研究者たちは取り組んできました。私たち人間は、例えば「雨が降ると地面はぬれる」「空は青い」「鳥は飛ぶ」といった、ごく当たり前のことを知っていて、それを何気なく日々の生活で使っています。このような、私たちが当然のこととして知っていることを「常識」と呼びますが、この常識を機械に理解させるのは、とても難しいのです。
この難題に挑んでいるのが、「サイクプロジェクト」です。この計画は1984年に始まり、今もなお続けられています。この計画の目的は、人間が持っているたくさんの常識を機械に入れ込み、機械に人間と同じように考え、行動させることです。一見すると簡単な目標のように思えますが、実現するにはさまざまな困難があります。
例えば、「鳥は飛ぶ」という常識を考えてみましょう。確かに多くの鳥は空を飛びますが、ペンギンやダチョウのように飛べない鳥もいます。また、ひな鳥や怪我をした鳥も飛ぶことができません。このように、常識には例外がたくさんあります。機械にこれらの例外を一つ一つ教え込むのは大変な作業です。さらに、常識は文化や地域、時代によっても変化します。ある文化では常識とされていることが、別の文化では常識ではない場合もあります。
このような複雑な常識を機械にどのように教え込むのか、サイクプロジェクトでは「知識ベース」と呼ばれる巨大なデータベースを作っています。このデータベースには、さまざまな常識が記号や論理式の形で蓄えられています。機械はこのデータベースを参照することで、様々な状況で適切な判断を下せるようになると期待されています。しかし、この知識ベースを構築し、維持していくこと自体が大きな課題となっています。常識は常に変化していくものなので、知識ベースも常に更新していく必要があります。また、常識の中には言葉で表現するのが難しいものも多く、それらをどのように機械に理解させるか、まだ解決されていない問題がたくさんあります。それでも、サイクプロジェクトは機械に常識を教え込むための重要な一歩と言えるでしょう。