位置エンコーディングで文脈を読み解く
言葉を理解するためには、それぞれの言葉が持つ意味だけでなく、言葉の並び順も非常に大切です。「私は猫が好きだ」と「猫は私が好きだ」は、言葉は同じでも、順番が違うだけで全く違う意味になる良い例です。人間は自然と理解できますが、コンピュータに文章を理解させるのは容易ではありません。コンピュータは基本的に、数字の列として単語を認識しています。そのため、単語の意味に加えて、文章中での位置関係も理解させなければなりません。
そこで活用されるのが「位置符号化」です。位置符号化は、文章中の単語の位置情報を、コンピュータが処理しやすい数値の列、つまりベクトルに変換する技術です。それぞれの単語が文章のどの位置にあるのかをベクトルで表すことで、コンピュータは単語の位置を把握できるようになります。この位置ベクトルは、単語の意味を表すベクトルに統合されます。これにより、コンピュータは単語の意味と位置の両方を考慮して文章を処理できるようになります。例えば、「走る」という動詞が文頭に来る場合は主語の動作を表し、文末に来る場合は目的語や補語の動作を表すといった、文脈に合わせたより深い理解が可能になるのです。
近年注目を集めている「変換器」のような深層学習モデルでは、この位置符号化が重要な役割を担っています。変換器は、文章全体の構造を捉えるのが得意なモデルですが、単語の位置情報を正確に捉えるためには位置符号化が不可欠です。位置符号化を用いることで、変換器はより高い精度で文章を理解し、翻訳や文章生成などの様々なタスクで優れた性能を発揮できるようになります。このように、位置符号化は、コンピュータに言葉を理解させるための重要な技術であり、自然言語処理の発展に大きく貢献しています。