常識を機械に:Cycプロジェクトの挑戦
AIを知りたい
先生、Cycプロジェクトって、コンピュータに色んなことを教え込んで賢くしようっていう試みですよね?でも、30年以上もやってるのにまだ終わってないって、なんかすごく大変そうですね…
AIエンジニア
そうだね。例えるなら、生まれたばかりの赤ちゃんに、身の回りのこと全てを一つずつ教えていくようなものなんだ。例えば、「空は青い」「物は落とすと下に落ちる」「熱いものは触ると危険」といった、私たちにとっては当たり前のことでも、コンピュータには一つずつ教え込まないといけないんだよ。
AIを知りたい
確かに、普段何も考えずにやってることって、改めて説明しようとすると難しいですね…。でも、そんなに大変なのに、なぜ続けられているんですか?
AIエンジニア
良い質問だね。全てを教え込むのは難しいけれど、少しでも多くのことを教え込むことで、コンピュータはより人間に近い考え方や判断ができるようになる。そして、難しい問題を解決したり、新しいものを生み出したりする助けになることが期待されているからなんだよ。
Cycプロジェクトとは。
人工知能に関係する言葉である「サイクプロジェクト」について説明します。この計画は、1984年から始まったもので、世の中の誰もが知っているような常識を全てコンピュータに覚えさせようという試みです。具体的には、例に挙げた図にあるような、ごく当たり前の知識をひたすらコンピュータに入力していく作業を行っています。この計画は30年以上たった今もなお続けられています。このことから、私たち人間が普段何気なく使っている常識が、実は膨大な量にのぼり、また、それをコンピュータが理解できる形に書き表すことが、いかに難しいかが分かります。
機械への常識の教え込み
「もの識りになるための機械の学習」という課題に、長年、人工知能の研究者たちは取り組んできました。私たち人間は、例えば「雨が降ると地面はぬれる」「空は青い」「鳥は飛ぶ」といった、ごく当たり前のことを知っていて、それを何気なく日々の生活で使っています。このような、私たちが当然のこととして知っていることを「常識」と呼びますが、この常識を機械に理解させるのは、とても難しいのです。
この難題に挑んでいるのが、「サイクプロジェクト」です。この計画は1984年に始まり、今もなお続けられています。この計画の目的は、人間が持っているたくさんの常識を機械に入れ込み、機械に人間と同じように考え、行動させることです。一見すると簡単な目標のように思えますが、実現するにはさまざまな困難があります。
例えば、「鳥は飛ぶ」という常識を考えてみましょう。確かに多くの鳥は空を飛びますが、ペンギンやダチョウのように飛べない鳥もいます。また、ひな鳥や怪我をした鳥も飛ぶことができません。このように、常識には例外がたくさんあります。機械にこれらの例外を一つ一つ教え込むのは大変な作業です。さらに、常識は文化や地域、時代によっても変化します。ある文化では常識とされていることが、別の文化では常識ではない場合もあります。
このような複雑な常識を機械にどのように教え込むのか、サイクプロジェクトでは「知識ベース」と呼ばれる巨大なデータベースを作っています。このデータベースには、さまざまな常識が記号や論理式の形で蓄えられています。機械はこのデータベースを参照することで、様々な状況で適切な判断を下せるようになると期待されています。しかし、この知識ベースを構築し、維持していくこと自体が大きな課題となっています。常識は常に変化していくものなので、知識ベースも常に更新していく必要があります。また、常識の中には言葉で表現するのが難しいものも多く、それらをどのように機械に理解させるか、まだ解決されていない問題がたくさんあります。それでも、サイクプロジェクトは機械に常識を教え込むための重要な一歩と言えるでしょう。
課題 | プロジェクト名 | 目的 | 手法 | 課題と現状 |
---|---|---|---|---|
機械に常識を理解させる | サイクプロジェクト (1984~) | 人間と同じように考え、行動する機械の実現 | 知識ベース (常識を記号や論理式で蓄積した巨大データベース) |
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終わりなき知識の入力
「終わりなき知識の入力」という題は、まさにサイクプロジェクトの本質を表しています。この計画の主な作業は、人が普段当然と思っている知識、いわゆる常識を、計算機が理解できる形に変換して入力することです。これは、途方もない量の作業となります。例えば、「空は青い」という、誰もが知っている簡単な常識を考えてみましょう。実際には、空の色は常に青ではありません。夕焼け時は赤く染まり、曇りの日は灰色になります。夜になれば黒く見え、場所によっては大気中の塵や光の加減で、様々な色に見えることもあります。このような様々な状況や例外を全て、計算機にわかるように記述しなければなりません。そうでなければ、計算機は「空は青い」という知識だけを頼りに、間違った判断をしてしまうでしょう。例えば、曇りの日に「空は青いはずだ」と判断して、屋外での活動に適した天気だと誤解するかもしれません。サイクプロジェクトでは、このような常識を、一つ一つ丁寧に、あらゆる例外や条件も含めて記述し、巨大な知識の集まりを作っています。まるで、広大な図書館に、世界中のあらゆる知識を収めた書物を、一冊ずつ書き写していくような作業です。この作業は、既に30年以上続けられていますが、人の持つ常識はあまりにも膨大で複雑なため、未だ終わりが見えていません。これは、人が意識せずに使っている常識が、どれほど多くの情報を含んでいるかを示しています。そして、計算機に人のような知能を持たせるためには、どれほど大変な作業が必要なのかを物語っています。この終わりなき知識の入力は、人工知能研究の大きな課題であり、同時に、人の知能の奥深さを改めて認識させてくれる挑戦でもあります。
常識の難しさ
「当たり前」と思うことほど、説明が難しい。これが、人工知能に常識を教え込む上での大きな壁です。かの有名なCycプロジェクトは、まさにこの難しさに直面しました。膨大な知識を蓄積するだけでは足りず、常識そのものを定義することの困難さに突き当たったのです。
例えば、「椅子は座るもの」という、誰もが疑わない常識を考えてみましょう。確かに、多くの場合私たちは椅子に座ります。しかし、椅子は必ずしも座るためだけにあるわけではありません。高いところに届かない時、踏み台として使うこともあるでしょう。また、ちょっとした物を置く台として使うこともあるでしょう。つまり、「椅子は座るもの」という常識は、常に正しいとは限らないのです。状況に応じて、その使われ方は変化します。このような、時と場合によって変わる曖昧さを、コンピュータにどう理解させるか。これは容易なことではありません。
さらに、常識は文化や地域によっても大きく違います。日本では、家に入る時は靴を脱ぐのが当たり前ですが、欧米では土足で家に入るのが一般的です。挨拶の仕方一つとっても、国が違えば方法は様々です。日本では軽く頭を下げるお辞儀が一般的ですが、他の国では握手や抱擁をするのが普通かもしれません。このような文化的な違いを無視して、世界中で通用する人工知能を作ることはできません。人工知能が真に賢くなるためには、それぞれの文化圏での常識を理解し、使い分ける必要があるのです。まるで、異なる言語を操るように。
このように、常識とは一見単純に見えて、実は非常に複雑なものです。様々な状況や文化背景を考慮し、柔軟に判断する必要があるため、コンピュータにとって理解するのは至難の業と言えます。人工知能開発の大きな課題は、まさにこの常識の壁をどう乗り越えるかにかかっていると言えるでしょう。
項目 | 説明 | 例 |
---|---|---|
常識の定義の難しさ | 当たり前と思うことほど説明が難しく、明文化が困難。 | Cycプロジェクトの例 |
常識の曖昧性 | 常識は常に正しいとは限らず、状況に応じて変化する。 | 椅子は座るものだが、踏み台や台としても使われる。 |
常識の文化・地域差 | 常識は文化や地域によって大きく異なる。 | 家に入る時の靴の扱い、挨拶の仕方(お辞儀、握手、抱擁) |
AI開発の課題 | 状況や文化背景を考慮した柔軟な判断が必要であり、AIにとって常識の理解は困難。 | AIが真に賢くなるためには、それぞれの文化圏での常識を理解し、使い分ける必要がある。 |
プロジェクトの成果と未来
三十年以上という長い期間に渡って続けられてきたCycプロジェクトは、膨大な量の常識知識を蓄積したデータベースを作り上げてきました。まるで人間の脳のように、世界に関する様々な知識を体系的に整理し、コンピュータが理解できる形にしたのです。この知識ベースは、人工知能の様々な分野で活用できる、まさに宝の山と言えるでしょう。
例えば、人間が日常的に使っている言葉をコンピュータに理解させる自然言語処理の分野では、Cycの知識ベースが大きな役割を果たすと期待されています。言葉の裏に隠された意味や、文脈を理解するためには、人間が当然のように持っている常識が必要不可欠です。Cycの知識ベースは、コンピュータにこの常識を提供することで、より人間に近い自然な言葉の理解を可能にするでしょう。
また、写真や動画に写っているものを認識する画像認識の分野でも、Cycの知識は役立ちます。例えば、写真に写っている動物が犬なのか猫なのかを判断するだけでなく、その犬がどのような行動をしているのか、周りの状況はどのようなものかを理解するためには、物事に関する一般的な知識が必要です。Cycの知識ベースは、画像認識システムにこの知識を提供することで、より高度な画像理解を可能にします。
さらに、ロボットが人間のように行動するためにも、常識は欠かせません。例えば、ロボットが家事を手伝う場合、どの順番で作業を行うべきか、どのような道具を使うべきか、といった判断には常識が必要です。Cycの知識ベースは、ロボットにこの常識を提供することで、より人間に近い柔軟な行動を可能にするでしょう。
もちろん、Cycプロジェクトはまだ発展途上であり、解決すべき課題も山積しています。しかし、人間のように考え、行動する人工知能の実現に向けて、Cycプロジェクトは大きな一歩を踏み出していることは間違いありません。今後のCycプロジェクトの進展によって、人工知能はさらに進化し、私たちの生活をより豊かにしてくれると期待されています。
分野 | Cyc知識ベースの役割 | 効果 |
---|---|---|
自然言語処理 | 言葉の裏に隠された意味や文脈を理解するために必要な常識を提供 | より人間に近い自然な言葉の理解 |
画像認識 | 写真や動画に写っているものに関する一般的な知識を提供 | より高度な画像理解 |
ロボット工学 | 行動の判断に必要な常識を提供 | より人間に近い柔軟な行動 |
人工知能の発展への貢献
人間の知識をコンピュータに教え込むという、壮大な計画であるCycプロジェクトは、人工知能の研究における大きな一歩と言えるでしょう。この計画は、人が当然知っている常識をコンピュータに理解させるという、非常に難しい課題に挑戦しています。コンピュータは計算や情報処理は得意ですが、人間の持つ常識的な判断や推論を行うことは苦手です。例えば、「空は青い」とか「鳥は飛ぶ」といった、私たちにとっては当たり前の知識を、コンピュータに理解させるのは容易ではありません。
Cycプロジェクトは、このような常識を体系的に整理し、コンピュータが理解できる形で表現しようとしています。この過程で、知識をどのように表現するか、どのように推論を行うか、どのように自然な言葉を理解させるかといった、人工知能における重要な技術が開発されてきました。これらの技術は、他の様々な人工知能の研究にも応用され、大きな成果を上げています。例えば、より自然な会話ができる対話システムや、複雑な状況を理解できるロボットの開発などにも役立っています。
さらに、Cycプロジェクトは、人工知能における新たな課題も明らかにしました。そもそも「常識」とは何か、どのように定義すれば良いのか、膨大な知識をどのように効率的に表現し、コンピュータに学習させるのかなど、多くの研究テーマがCycプロジェクトから生まれています。これらの課題は、人工知能の研究をさらに深化させるための、重要な手がかりとなるでしょう。
Cycプロジェクトは、人工知能の未来を切り開くための、重要な役割を担っています。このプロジェクトで得られた知見や技術は、今後の人工知能の発展に大きく貢献していくと考えられます。そして、私たちが想像する以上に高度な人工知能の実現に、Cycプロジェクトが大きく寄与していくことは間違いないでしょう。