知識創造の螺旋:SECIモデル
AIを知りたい
先生、「SECIモデル」ってよく聞くんですけど、よくわからないんです。簡単に説明してもらえますか?
AIエンジニア
わかったよ。「SECIモデル」は、人が頭の中で考えていることや、経験から得たコツのようなものを、言葉や図などで表現できる形に変えて、新しい知識を生み出すための考え方だよ。たとえば、自転車の乗り方を言葉で説明したり、絵に描いて説明することを想像してみて。
AIを知りたい
なるほど、頭の中にあるモヤモヤしたものを、誰かに伝えられる形にするってことですね。でも、それでどうして新しい知識が生まれるんですか?
AIエンジニア
いい質問だね。例えば、自転車の乗り方を言葉で説明したAさんと、コツを絵で説明したBさんがいたとしよう。二人が説明を共有すれば、それぞれが気付いていなかった点に気付き、より効果的な乗り方を発見できるかもしれない。SECIモデルは、このように、表現された知識を共有し組み合わせることで、新たな知識の創造を目指しているんだよ。
SECIモデルとは。
『SECIモデル』という、人工知能に関係する言葉について説明します。SECIモデルとは、人がそれぞれ持っている知識や経験といった、言葉にならない知識を、言葉で表現できる形に変換し、言葉で表現できる知識を組み合わせることで、新しい知識を生み出す方法のことです。
はじめに
現代社会では、知識こそが最も大切な財産の一つと言えるでしょう。会社などの組織は、常に新しい知識を生み出し、それをうまく活用することで、他社に負けない強みを作ろうと日々努力しています。知識を生み出すための方法や、その知識をうまく活用するための方法論は様々ありますが、その中でもSECIモデルは、組織の中で知識がどのように作られていくのかを理解し、その創造を促すための、とても有力な枠組みです。
SECIモデルとは、知識創造の過程を「共同化」「表出化」「連結化」「内面化」の四つの段階に分け、それぞれの段階で知識がどのように変化し、組織全体に広がっていくのかを説明するものです。まず、「共同化」とは、個人が持つ暗黙知、つまり言葉で表現しにくい、経験に基づく知識を、共同作業や職場での交流などを通して共有することです。次に、「表出化」とは、共有された暗黙知を、言葉や図表などを使って表現できる形にする、つまり形式知に変換する段階です。この段階では、メタファーやアナロジーなどを用いることで、暗黙知をより分かりやすく表現することが重要になります。
三番目の「連結化」は、形式知同士を結びつけ、体系化することです。例えば、複数の報告書やマニュアルを組み合わせ、新しい知識体系を構築する作業がこれに当たります。そして最後の「内面化」は、組織の中で共有されている形式知を、個人が学習し、自分のものとして吸収する段階です。こうして形式知は再び暗黙知となり、個人の経験や技能として蓄積されていきます。
SECIモデルは、単なる知識の管理方法ではなく、組織全体の学びと成長を促すための土台となるものです。このモデルを理解し、活用することで、組織は継続的に知識を創造し、競争力を高めることができるでしょう。
共同化
知識を生み出すための最初の段階は、共同化と呼ばれる過程です。これは、人々が共に時間を過ごし、経験を共有することで、言葉にできない知識を形作っていくことを指します。まるで、熟練した職人さんが弟子に技を伝える時のようなものです。職人さんは、言葉で説明するだけでなく、実際に見せることで、弟子に自分の技を伝えていきます。弟子は、職人さんの動きや、道具の使い方、そして、作品に込められた思いなどを、五感を通して感じ取り、吸収していくのです。この段階では、言葉で表現されていない感覚や経験こそが重要です。例えば、職人と弟子が一緒に作業をする中で、道具の感触や材料の匂い、そして、周りの音など、様々な感覚を共有します。これらの感覚は、言葉では伝えきれない、大切な知識となります。
職場では、様々な場面で共同化が行われています。例えば、同僚と一緒に仕事をする、チームで計画を進める、あるいは、先輩が後輩を指導する、といった活動を通して、人々は互いに知識や経験を共有し、新たな知識を生み出していくのです。
共同化をより良く行うためには、安心して話し合える雰囲気を作ることが大切です。お互いを信頼し、自由に意見を言い合える環境が必要です。例えば、上司と部下がお茶を飲みながら仕事の話をする、同僚同士で気軽に相談し合う、といった何気ない会話の中で、大切な知識が共有されることもあります。このような、信頼に基づいた、開かれた話し合いを大切にすることで、人々は安心して自分の知識や経験を共有し、より良い結果を生み出すことができるのです。
表出化
表出化とは、心の中にある漠然とした知識を、誰にでも分かる形にすることです。これは、一人ひとりが経験から得た感覚やひらめきを、話し言葉や書き言葉、図や表、文章といった形あるものに変えていく作業を指します。例えば、長年培ってきた熟練の技を持つ職人が、自身の技術の秘訣を指導書としてまとめる作業は、まさに表出化と言えるでしょう。
この表出化の段階では、いかに分かりやすく表現するかが鍵となります。頭の中にあるぼんやりとしたイメージを、そのまま言葉にするのは容易ではありません。そこで、比喩や例えを用いて、抽象的な概念を具体的なものに置き換える工夫が重要になります。例えば、「絹のような滑らかさ」や「雷のような速さ」といった表現は、具体的なイメージを想起させることで、より分かりやすい説明を可能にします。
また、複数人で話し合う場を設けることも効果的です。グループでの話し合いや意見を出し合う場を通じて、それぞれの持つ暗黙知を共有し、言葉にしていくことで、より明確な形に表出化することができます。
表出化された知識は、組織全体で共有することが可能になります。これは、他の社員の学びを深める貴重な資料となり、組織全体の能力向上に繋がります。例えば、熟練の職人が書き残した指導書は、新人社員の教育に役立ち、技術の伝承をスムーズに行うことができます。このように、表出化は、個人の知識を組織の財産へと昇華させる、重要なプロセスと言えるでしょう。
連結化
結びつけることとは、いくつもの知識のかたまりを組み合わせ、新しい発見を生み出す進め方のことです。
たとえば、会社の中でいくつかの部署から出てきた報告書をひとつにまとめ、新しい事業の進め方を考えるのが、まさに結びつけることに当てはまります。
この作業では、すでにわかっていることを整理し、筋道を立ててまとめることが大切です。
会社のコンピュータにしまわれている資料や、知識を管理する仕組みを使うと、会社の中に散らばっている知識をうまく集めて、ひとつにまとめることができます。
また、いろいろな分野の専門家が集まって話し合うことで、新しい考え方や工夫が生まれ、より質の高い発見につながります。
たとえば、新しい商品の開発を考えているとします。開発部門は、最新の技術を使った商品の性能向上を目指しています。営業部門は、顧客のニーズを把握し、市場で売れやすい商品の企画を重視しています。これらの部門の情報や知識を結びつけることで、高性能かつ市場のニーズに合った、より良い商品を開発することが可能になります。
このようにして結びつけられた知識は、会社の強みを高めるための大切な財産となります。
また、結びつける作業は、会社の中だけにとどまりません。近年では、異なる会社同士が協力して新しい技術や商品を生み出すオープンイノベーションも注目されています。
それぞれの会社が持つ得意な技術や知識を組み合わせることで、単独では実現できない革新的な成果を生み出すことができます。
結びつけることは、常に新しい発見を生み出し、社会全体の進歩にも大きく貢献していくと言えるでしょう。
内面化
内面化とは、文書や図表といった形ある知識を、個人が意識せずとも自然に使える知識へと変化させることを意味します。まるで、自転車に乗るように、最初は手順を意識しながらも、練習を重ねるうちに無意識に体が動くようになる、あの感覚です。仕事で言えば、業務の手順書を何度も読み返し、理解したつもりでも、実際にやってみると戸惑うことがあります。しかし、繰り返し実践し、経験を積むことで、手順書を見なくても自然と体が動くようになります。これが内面化です。
例えば、新入社員研修で会社の理念や行動規範を学ぶ場面を考えてみましょう。研修資料を読むだけでは、表面的な理解にとどまりがちです。しかし、研修で学んだ内容を、日々の業務の中で実践し、先輩社員からの助言や指導を受けることで、会社の理念や行動規範を自分のものとして理解し、行動に反映できるようになります。これが内面化のプロセスです。
また、熟練した技術者の技能伝承も内面化の良い例です。師匠の技を言葉や図解で完全に伝えることは難しいでしょう。弟子は、師匠の仕事ぶりを注意深く観察し、見よう見まねで実践します。最初はぎこちなくても、師匠の指導を受けながら繰り返し練習することで、弟子は師匠の技を自分のものとして体得していきます。このように、内面化は、個人の成長だけでなく、組織全体の知識や技能の伝承にも重要な役割を果たしています。そして、内面化によって得られた知識や技能は、さらに新しい知識や技能を生み出す土台となるのです。
段階 | 説明 | 例 |
---|---|---|
意識的な学習 | 文書や図表など、形ある知識を理解しようとする段階。 | 新入社員研修で会社の理念や行動規範を学ぶ。業務の手順書を読む。 |
実践と経験 | 理解した知識を実際に使ってみる段階。繰り返し実践し、経験を積むことで、知識が体に馴染んでいく。 | 研修で学んだ内容を日々の業務で実践する。先輩社員からの助言や指導を受ける。手順書を見ながら業務を行う。師匠の技を見よう見まねで実践する。 |
内面化 | 知識が完全に身につき、無意識に使えるようになる段階。 | 会社の理念や行動規範を自分のものとして理解し、行動に反映できる。手順書を見なくても自然と体が動く。師匠の技を自分のものとして体得する。 |
知識創造の螺旋
知識創造の螺旋とは、人がどのようにして新しい知識を生み出し、それを発展させていくのかを説明する考え方です。この考え方の核となるのがSECIモデルと呼ばれるものです。SECIモデルは、共同化、表出化、連結化、内面化という四つの段階を循環することで、知識が螺旋を描くように、より高次なものへと昇華していくことを示しています。
まず、共同化は、人々が共に仕事をする中で、経験やノウハウといった言葉にしにくい知識(暗黙知)を共有する段階です。職場で先輩から後輩へ仕事のやり方を指導したり、チームで共同作業を行う中で自然と身につくコツや勘といったものが、これに当たります。
次に、表出化は、共有された暗黙知を言葉や図表など、誰にでもわかる形(形式知)に変換する段階です。例えば、熟練の職人さんが長年の経験に基づいた技術をマニュアルにまとめたり、チームのミーティングで議論した内容を議事録に書き起こしたりすることが挙げられます。
三番目の連結化は、形式知をもとに新しい知識を生み出す段階です。作成されたマニュアルを参考に新たな作業手順を開発したり、複数の議事録を分析して共通点や相違点を見つけ出し、そこから新しいアイデアを生み出すといった活動が該当します。
最後に、内面化は、生まれたばかりの形式知を、個人が実践を通して再び自分自身の暗黙知として吸収する段階です。新しいマニュアルを読んで理解するだけでなく、実際に作業を行う中で自分のものとしていくことや、新しいアイデアを踏まえて自分なりの工夫を加えていくといったことが、これに当たります。
このようにして、内面化された知識は再び共同化の段階へと戻り、新たな知識創造の螺旋が始まります。この絶え間ない循環こそが、組織全体の知識を高め、成長を促す原動力となるのです。SECIモデルを理解し、組織の知識創造の仕組みにうまく活用することで、より効果的な知識の管理を実現し、組織の競争力を向上させることができるでしょう。